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居宅サービスの対価と医療費控除
厚生労働省の「介護保険事業状況報告の概要」(平成22年2月暫定版)によれば第1号保険者数は前期高齢者(65歳から74歳)が1,500万人、
後期高齢者(75歳以上)が1,300万人で合せて2,800万人。そのうち要介護認定を受けている人の数は481万人、割合にして16.69%になりま
す。要介護認定を受けているのは前期高齢者の場合は64万人、割合にして4.25%ですが、後期高齢者の場合は402万人となり、割合にして29.37%
にも上ります。
また、
要介護認定を受けている人のうち居宅サービスを受けている人は291万人、割合にして60.40%になっています。このように多くの方たちが介護保険制度
の下、サービス提供事業所の居宅サービス計画書に基づき、各種の居宅サービスを受けられています。
居宅サービスを受けた場合の対価の支払額について、医療費控除の対象となるかどうかについては、サービス計画書に医療系サービスが位置づけられているかどう かが判断基準になっています。
居宅サービスと医療費控除に関する国税不服審判所 平成21年6月12日の裁決事例をご紹介いたします。
裁決事例集bV7 143頁
事案の概要
本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、居宅サービスの利用料を医療費控除の対象として平成19年分の所得税の確定申告を行ったところ、 原処分庁が、当該利用料は医療費控除の対象とならないとして更正処分を行ったことから、請求人がその全部の取消しを求めた事案である。
基礎事実
- 請求人と生計を一にする配偶者であるAは、平成18年1月26日、P県Q市から介護保険法第19条《市町村の認定》第1項に規定する要介護認 定 の更新を受けた。なお、更新後の要介護認定の有効期間は、平成20年2月29日までとされた。
- 指定居宅介護支援事業者及び指定居宅サービス事業者である社会福祉法人Bは、平成18年2月28日、Aが利用する指定居宅サービス等の種
類及び
内容等を定めた居宅サービス計画を作成した(以下、この居宅サービス計画を「本件居宅サービス計画」という。)。
なお、本件居宅サービス計画上、Aが利用する居宅サービスは通所介護(介護保険法第8条第7項)とされ、訪問看護(同条第4項)、訪問リハ ビリテー ション(同条第5項)、居宅療養管理指導(同条第6項)、通所リハビリテーション(同条第8項)及び短期入所療養介護(同条第10項)(以下、上記からま での 各居宅サービスを併せて「医療系サービス」という。)は、いずれも本件居宅サービス計画に位置付けられていなかった。
- 平成19年において、Aは、社会福祉法人Bから通所介護及び福祉用具貸与の居宅サービスを受け、請求人は、当該居宅サービスの対価として、そ の利用料 241,313円(以下「本件利用料」という。)を社会福祉法人Bに支払った。
請求人の主張
Aは、社会福祉法人BのケアマネージャーがAの主治医とも相談して作成した本件居宅サービス計画に基づいて、介護保険法第8条第7項及び介護保険法 施行規則第10条《法第8条第7項の厚生労働省令で定める日常生活上の世話》に規定する通所介護に該当する居宅サービスを受けており、当該居宅サービスに 係る本件利用料は、所得税基本通達73−6《保健師等以外の者から受ける療養上の世話》に定める「療養上の世話を受けるために特に依頼したものから受ける 療養上の世話」の対価に該当するから、医療費控除の対象となる。
国税不服審判所の判断
(1) 医療費控除の対象となる医療費について、所得税法第73条第2項は、医師又は歯科医師による診療又は治療、治療又は療養に必要な医薬品の購
入その他医療又はこれに関連する人的役務の提供の対価のうち通常必要であると認められるものとして政令で定めるものをいう旨規定し、これを受けて、所得税
法施行令第207条《医療費の範囲》は、医師又は歯科医師による診療又は治療(同条第1号)、あん摩マッサージ指圧師等施術者又は柔道整復師による施術
(同条第4号)、保健師、看護師又は准看護師による療養上の世話(同条第5号)及び助産師による分べんの介助(同条第6号)等の対価のうち、その病状等に
応じて一般的に支出される水準を著しく超えない部分の金額がこれに該当する旨規定している。
そして、所得税基本通達73−6は、上記の「保健師、看護師又は准看護師による療養上の世話」には、保健師、看護師又は准看護師以外の者で療養上の世話
を受けるために特に依頼したものから受ける療養上の世話も含まれる旨定め、本件個別通達は、居宅サービスの対価に係る医療費控除の取扱いについて、医療系
サービスのいずれかが位置付けられている居宅サービス計画に基づいて、居宅サービスを利用する者を対象とし、当該対象者が医療系サービスと併せて利用する
対象居宅サービスに要する費用(介護保険法第41条《居宅介護サービス費の支給》第4項各号に規定する「厚生労働大臣が定める基準により算定した費用の
額」をいう。)に係る自己負担額を、療養上の世話を受けるために特に依頼した者による療養上の世話の対価として医療費控除の対象とする旨定めている。
これら各通達の定めは、医療の対価と評価できるものについて、これを医療費控除の対象としている法の趣旨に照らし相当であると認められる。
(2) これを本件についてみると、本件利用料のうち、別表2の「通所介護」欄記載の通所介護に係る費用の額は、対象居宅サービスに要する費用に該当する
ものの、上記1の(4)のロ及びハのとおり、本件居宅サービス計画には医療系サービスがいずれも位置付けられていないこと、Aは医療系サービスを利用して
いないことから、療養上の世話を受けるために特に依頼した者による療養上の世話の対価とは認められない。
また、別表2の「福祉用具貸与」欄記載の福祉用具貸与に係る費用の額及び「食事」欄記載の食費の額は、対象居宅サービスに要する費用にも該当せず、日常
生活に関連する費用と認められることから、医療費控除の対象とすることはできない。
したがって、本件利用料は、その全額が医療費控除の対象とならないから、請求人の主張には理由がない。
医療系サービスとは
「介護保険制度下での居宅サービスの対価に係る医療費控除の取扱いについて(法令解釈通達)」(平成12年6月8日) (課所4―11)によると
居宅サービス計画に次に掲げる居宅サービスのいずれかが位置付けられることとされています。
- 訪問看護(介護保険法8条第4項)
- 訪問リハビリテーション(同条第5項)
- 居宅療養管理指導(同条第6項)
- 通所リハビリテーション(同条第8項)
- 短期入所療養介護(同条第10項)
(注)1.については、老人保健法及び医療保険各法の訪問看護療養費の支給に係る訪問看護を含む。
上記裁決事例の詳細につきましては下記のホームページをご覧ください。 http://www.kfs.go.jp/service/JP/77/10/index.html
厚生労働省の「介護保険事業状況報告の概要」(平成22年2月暫定版)についての詳細につきましては下記のホームページをご覧ください。
http://www.mhlw.go.jp/topics/kaigo/osirase/jigyo/m10/1002.html
