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医療法人理事長の退職金に関する裁決事例

病院を営む医療法人の理事長兼病院長であった前理事長に対し病院長退任時に支給した金員について、前理事長が回復困難な重度の疾病により病院長を退 任した時に、報酬を大幅に減額の上、理事長職も実質的に退任したとして支給したものであ るから、法人税基本通達9−2−23《役員の分掌変更等の場合の退職給与》の(3)の取扱いにより、役員退職給与に該当し、損金の額に算入できると主張し ていました。
・法人税基本通達9−2−23《役員の分掌変更等の場合の退職給与》
 法人が役員の分掌変更又は改選による再任等に際しその役員に対し退職給与として支給した給与については、その支給が、例えば次に掲げるような事実があつ たことによるものであるなど、その分掌変更等によりその役員としての地位又は職務の内容が激変し、実質的に退職したと同様の事情にあると認められることに よるものである場合には、これを退職給与として取り扱うことができる。
(3) 分掌変更等の後におけるその役員の給与が激減(おおむね50%以上の減少)したこと。(平成19年改正前の通達です。)


国税不服審判所の判断

国税不服審判所の判断として、

  1. 医療法人の理事長には業務の分掌という概念はない
    医療法上、医療法人の理事長は医療法人を代表し、その業務を総理するものであることから、理事長には業務の分掌という概念はなく、 したがって、理事長にあっては、同通達の適用に当たり、分掌変更を理由として「実質的に退職したと同様の事情にある」とする余地はないこと。
  2. 最終的判断は前理事長が行っていたと認められる
    前理事長が重度の疾病を患っていた事実は認められるものの、請求人における理事長の職務の大部分は常務理事が代行しており、前理事長の主たる職務は請求人 の各般の業 務に関する最終的な判断にあったと認められること
  3. 引き続き常勤医若しくは嘱託医のとして勤務していた
    前理事長が病院長退任後、報酬は大幅に減額されたものの、引き続き常勤の医師として病院に勤務す るとともに、嘱託医として他の複数の社会福祉法人に医師として勤務していたこと

これらを総合的に考慮すれば、前理事長は、病院長退任当時においても、請求人にお ける理事長の職務を十分に遂行し得る判断力を有し、十分理事長の職務に耐え得る状態にあったものと認められるから、前理事長について、病院長退任時におい て、実質的に請求人を退職したと同様な事情があったとは認められない。したがって、当該通達の取扱いは適用されず、請求人が前理事長に対して支給した本件 金員は、理事長在任期間中に支給された臨時的な給与であると認められるので、法人税法第35条《役員賞与等の損金不算入》第4項に規定する役員賞与に該当 し、損金の額に算入することはできないとされました。

(平19. 4.13 東裁(法・諸)平18-231)


通達の改正

その後、通達は改正され通達番号も9−2−32《役員の分掌変更等の場合の退職給与》となり、次のような文言が追加されました。
(3) 分掌変更等の後におけるその役員(その分掌変更等の後に おいてもその法人の経営上主要な地位を占めていると認められる者を除く。)の給与が激減(おおむね50%以上の減少)したこと。

平成19年の改正点の解説においても『本通達では、この「実質的に退職したと同様の事情にあると認められること」の例示として、3項目を掲げている ところである。このうち(3)においては、改正前は「分掌変更等の後における報酬が激減(おおむね50%以上の減少)したこと。」が掲げられていたところ であるが、これについて、形式的に報酬の額を50%以上引き下げ ればその際にその役員に支給した臨時的な給与はすべて退職給与として損金算入することが可能であると曲解する向きも極めて少数ではあるが存していたようで ある。
 しかしながら、本通達の(1)から(3)は、従来からの通達の文言上も明らかなように、あくまでも例示であり、たとえ形式的に報酬が激減したという事実 があったとしても実質的に退職したと同様の事情にない場合には、その支給した臨時的な給与を退職給与として損金算入できる余地がないことは言うまでもな い。
 そこで、今回の改正により、仮にその役員の給与が激減(おおむね50%以上の減少)したとしても、その分掌変更等の後においてもその法人の経営上主要な 地位を占めていると認められる者については、本通達の取扱いの適用はない旨を明らかにしたところである。』とあります。

形式的に給与が激減しても実質的に経営上の地位を占めている場合には認められないということです。

 

 

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