HOME >コラム

コラム

 

振込め詐欺の被害額は雑損控除の対象になるのか

まだ、振込め詐欺に関する被害について新聞やテレビで報じられていますが、この振込め詐欺の被害にあった場合に被害額について、所得税の雑損控除の 対象になるのかについての裁決事例が公表されています。

この裁決では、振込め詐欺の被害に遭い、騙し取られた金額分の損失は、雑損控除の対象となる災害又は盗難若しくは横領による損失には当たらないとさ れました。


所得税法の雑損控除の規定

所得税法に規定する雑損控除は、「居住者又はその者と生計を一にする配偶者その他の親族で政令に定めるものの有する資産について災害又は盗難若しく は横領による損失が生じた場合において」適用するものであるとあります。


本事案が該当するのか

本事案は、いわゆる振り込め詐欺の被害に遭い、だまし取られた金額分の損失が、雑損控除制度の趣旨・目的に照らし「災害又は盗難若しくは横領」に よる 損失に当たるか否か、又は「災害」による損失、「盗難」による損失若しくは「横領」による損失のいずれかの損失に当たるか否かが争われたものです。

事案の概要

本件は、事業所得を有する審査請求人(以下「請求人」という。)が、平成20年分の所得税の確定申告及び修正申告をした後に、平成20年中にいわゆ る振り込め詐欺の被害に遭い、だまし取られた金額分の損失が生じたから、この損失が所得税法第72条第1項に規定する雑損控除の対象になるとして、更正の 請求をしたのに対し、原処分庁が、上記損失は雑損控除の対象とはならないとして、更正をすべき理由がない旨の通知処分を行ったことから、請求人が、同通知 処分の全部の取消しを求めた事案です。  

  1. 請求人は、平成20年4月7日、請求人の長男と名乗る氏名不詳者から、電話で「勤務先の金を流用したので、穴埋めするための金が必要であ る。」旨のうそを告げられ、電話の相手方が長男本人であり、金を必要としているものと誤信し、郵便局から、電話の相手方が指定したC銀行のD名義の口座 (以下「本件口座」という。)へ、240万円を振込送金した。 
    さらに、請求人は、平成20年4月8日及び同月10日にも、請求人の長男と名乗る氏名不詳者から、電話で「流用した金の穴埋めのため、更に金が必要であ る。」旨のうそを告げられ、再び、電話の相手方が長男本人であり、金を必要としているものと誤信し、郵便局から、電話の相手方が指定した本件口座へ、 260万円及び320万円を順次振込送金した。 
  2. その後、請求人は、上記合計3回の電話の相手方がいずれも長男ではなく、いわゆる振り込め詐欺の手口により、本件各振込みをした合計820万 円分の金銭をだまし取られたことに気付き、平成20年4月11日、警察署に被害届を提出した。
  3. 請求人は、犯罪利用預金口座等に係る資金による被害回復分配金の支払等に関する法律に基づく被害回復分配金や、上記のいわゆる振り込め詐欺の 犯人からの損害賠償金その他の損失補償金などを、何も受け取っていない。
     
審判所の判断

請求人は、いわゆる振り込め詐欺の被害に遭い、だまし取られた金額分の損失(本件損失)が、雑損控除制度の趣旨・目的に照らせば所得税法の 《雑損控除》に規定する「災害又は盗難若しくは横領」による損失、又は「災害」による損失、「盗難」による損失若しくは「横領」による損失のいずれ かの損失に当たる旨主張する。  

しかしながら、「災害」、「盗難」及び「横領」はいずれも別個の概念であること。

また、上記詐欺の犯人が指定した口座に3回にわたり振込送金した請 求人の行為(本件各振込み)自体が、請求人の意思に基づいてなされているから、本件損失は「災害」による損失に当たらないこと。

「盗難」の意義は「財物の占有者の意に反する第三者による当該財物の占有の移転」と解されるところ、本件各振込みが請求人の意思に基づいてなされて いるから、本件損失は「盗難」による損失に当たらないこと。

「横領」の意義は「他人の物の占有者が委託の任務に背いて、その物につき権限がないのに所有者でなければできないような処分をすること」と解される ところ、請求人が振り込んだ金銭に対する所有権は本件各振込みを終えた時点で、当該金銭に対する占有とともに上記詐欺の犯人側へ移転したと認められ、当該 犯人はそもそも請求人の物の占有者ではないから、本件損失は「横領」による損失に当たらないこと。

以上のことから、本件損失は、所得税法に規定する「災害又は盗難若しくは横領による損失」には当たらない。

 したがって、請求人の更正の請求について、更正をすべき理由がないとした本件通知処分は、適法であるとされました。



上記裁決事例の詳細については国税不服審判所のホームページに 掲載されていますのご覧ください。


 

 

問い合わせ

 

 


半沢浩の病医院節税対策シリーズ