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分離長期譲渡所得の損益通算(最高裁判決)  平成23年9月22日


平成16年改正により分離譲渡所得の他の総合課税の所得との損益通算を認めない取り扱いが、 平成16年法律第14号附則27条1項により、「改正後の同条の規定は平成16年1月1日以後に行う土地等又は建物等の譲渡につい て適用するものとされたこと」につき,同月30日にその所有する土地の売買契約を締結するなどして同年分の長期譲渡所得の金額の計算上損失を生じた上告人 が,改正法がその施行日である同年4月1日より前にされた土地等又は建物等の譲渡についても上記損益通算を認めないこととしたのは納税者に不利益な遡及立 法であって憲法84条に違反しているのではないかとの主張に対し、法施行日(4月1日)前の1月1日この法律改正により長期譲渡所得に係る損益通 算を認めないこととした同法による改正後の租税特別措置法31条の規定をその施行日より前に個人が行う土地等又は建物等の譲渡について適用するものとして いることは,憲法84条の趣旨に反するものとはいえないと結論づけられました。

判決の要旨

  1. 改正法施行前にされた長期譲渡について暦年途中の改正法施行により変更された規定を適用することは,これにより,所得税の課税関係における納 税者の 租税法規上の地位が変更され,課税関係における法的安定に影響が及び得るものというべきであるが、その変更が当該財産権に対する合理的な制約として容認さ れるべきものであるかどうかによって判断すべきものであること。
  2. 改正の趣旨は、操作性の高い投資活動等から生じた損失と事業活動等から生じた所得との損益通算の制限,地価下落等の土地をめぐる環境の変化を 踏まえ た税制及び他の資産との均衡を失しない市場中立的な税体系の構築等にあること。改正は,長期譲渡所得の金額の計算において所得が生じた場合には分離課 税がされる一方で,損失が生じた場合には損益通算がされることによる不均衡を解消し,適正な租税負担の要請に応え得るようにするとともに,長期譲渡所得に 係る所得税の税率の引下げ等とあいまって,使用収益に応じた適切な価格による土地取引を促進し,土地市場を活性化させて,我が国の経済に深刻な影響を及ぼ していた長期間にわたる不動産価格の下落(資産デフレ)の進行に歯止めをかけることを立法目的として立案され,これらを一体として早急に実施することが予 定されたものであったと解されること。
  3. 本件改正附則において本件損益通算廃止に係る改正後措置法の規定を平成16年の暦年当初から適用することとされたのは,その適用の始期を遅ら せた場合,損益通算による租税負担の軽減を目的として土地等又は建物等を安価で売却する駆け込み売却が多数行われ,上記立法目的を阻害するおそれがあった ため,これを防止する目的によるものであったと解されること。
  4. 暦年の初日から改正法の施行日の前日までの期間をその適用対象に含めることにより暦年の全体を通じた公平が図られる面があり,また,その期間 も暦年 当初の3か月間に限られている。納税者においては,これによって損益通算による租税負担の軽減に係る期待に沿った結果を得ることができなくなるものの,そ れ以上に一旦成立した納税義務を加重されるなどの不利益を受けるものではないこと。

これらの諸事情を総合的に勘案すると,本件改正附則が,本件損益通算廃止に係る改正後措置法の規定を平成16年1月1日以後にされた長 期譲渡に適用するも のとしたことは,上記のような納税者の租税法規上の地位に対する合理的な制約として容認されるべきものと解するのが相当である。したがって,本件改正附則 が,憲法84条の趣旨に反するものということはできない。


憲法84条 租税法律主義の規定

第八十四条 あらたに租税を課し、又は現行の租税を変更するには、法律又は法律の定める条件によることを必要とする。


改正前の取り扱い

平成16年改正前においては、分離譲渡所得に損失が生じた場合に短期譲渡所得グループ(総合短期譲渡所得と分離短期譲渡所得)と長期譲渡所得グルー プ(総合長期譲渡所得と分離長期譲渡所得)内での損益通算を行い、なお控除しきれない金額については、他の譲渡所得グループの分離譲渡所得から控除し、控 除しきれない損失は総合譲渡所得から控除し、まだ、控除しきれない場合は、事業所得や給与所得から控除することができました。また、青色申告者の場合は控 除しきれない金額について純 損失として3年間繰り越し控除が認められていました。


改正後の取り扱い

平成16年の法律改正により分離譲渡所得に生じた損失は他の分離譲渡所得の損益通算はできますが、総合譲渡所得との通算はできなくなりま した。控除しきれない損失がある場合は打ち切りとなりました。


詳細につきましては下記の最高裁判所ホームページでご確認ください。


判決文



 

 

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